広島地方裁判所 平成6年(行ウ)22号 判決
原告
山本猶登
被告
広島法務局長堂ノ本眞
右指定代理人
佐下勝義
外三名
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告が原告に対し平成六年六月一四日付けでした、広島法務局大竹出張所登記官の地図備付けに対する審査請求を却下するとの裁決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
1 本案前の答弁
(一) 本件訴えを却下する。
(二) 訴訟費用は原告の負担とする。
2 本案の答弁
主文同旨
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 原告は、広島県大竹市栗谷町大栗林字高祖谷四四六番一の土地(以下「本件土地」という)の共有者である。
2 広島法務局大竹出張所登記官は、本件土地につき、地図に準ずる図面及び地積側量図の備付け(以下「本件地図備付け」という)を行った。
3 しかるに、本件地図備付けは、現地に再現性のない不正確な地図に基づき、当事者の意思に反してなされたものであり、民法一七六条ないし一七八条に反する違法なものである。
4 そこで、原告は、被告に対し、平成六年五月二日付けで、本件地図備付けの取消を求めて審査請求をしたが、被告は、同年六月一四日付けで右審査請求を却下する旨の裁決(以下「本件裁決」という)を行った。
5 よって、原告は、被告に対し、本件裁決の取消しを求める。
二 被告の本案前の主張
裁決取消しの訴えは、原処分が違法又は不当であることによって、審査請求人が直接に自己の権利又は利益を侵害される関係にある場合に、当該裁決を取り消して再度審査庁の実体的審査を受けることを目的とするものである。しかるに、本件地図備付けは、本件土地の実体的な権利関係や境界等に変動を及ぼすものではなく、原告の法律上の利益には何ら影響しないから、原告は、再度審査庁の実体的審査を受けることはできない。したがって、本件訴えは、訴えの利益を欠くものというべきである。
三 請求原因に対する認否
1 請求原因1、2、4は認める。
2 同3は争う。
第三 証拠
本件訴訟記録中の書証目録記載のとおりである。
理由
一 請求原因1(当事者)、同2(本件地図備付けに至る経緯)、同4(本件裁決)の事実は当事者間に争いがない。
二 まず、被告の本案前の主張について検討する。
被告は、本件地図備付けが処分性を有せず、原告が本件裁決を取り消しても、再度審査庁の実体的審査を受けることはできないから、原告は、本件裁決の取消しを求めるにつき訴えの利益がない旨主張する。確かに、原処分に対する取消訴訟の却下判決が既に確定している場合、又は、原処分に対する取消訴訟がその審査請求裁決に対する取消訴訟に併合されており、前者について却下判決をすべき場合であれば、審査請求裁決を取り消すことは法的に全く意味がなく、訴えの利益がないとされる場合もあり得るであろう。しかしながら、本件の場合、本件裁決の原処分にあたる本件地図備付け(これが処分性を有するかはさておき)についてその取消訴訟の却下判決が確定しているものではなく、また、その取消訴訟が併合されているのでもないから、本件裁決を取り消すことが法的に全く意味がないわけではない。しかも、後記のとおり、本件裁決の取消訴訟においては、原処分たる本件地図備付けに処分性がないとした被告の判断それ自体の適法性が請求原因になっていると解しうるのであって、当該行為の処分性は本件訴訟における本案の問題となっているものというべきである。したがって、本件裁決の取消訴訟における訴えの利益は否定されないというべきである。
三 そこで、次に、請求原因について検討する。
1 証拠(甲一)によれば、本件裁決は、原処分たる本件地図備付けが行政不服審査法一条にいう行政庁の処分にあたらず、その取消しを求める審査請求は不適法であるとして、これを却下したものであり、本件地図備付けの実体的な適法性について判断したものではないことが認められる。したがって、本件裁決の取消しの訴えにおいては、そもそも本件地図備付けの違法が取消事由になることはあり得ないというべきである。もっとも、この点について、原告は、本件地図備付けについての違法を請求原因としているのみであるが、黙示的には、本件地図備付けを行政庁の処分でないとした判断そのものを本件裁決の違法事由として主張しているものと解すことができるというべきである。
2 そこで、被告の右判断が適法であるか否か検討するのに、行政不服審査法一条にいう「行政庁の処分」とは、その行為により直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいうところ、本件地図備付けは、登記官が、登記された土地についての事実状態の把握を目的として行うものに過ぎず、それによって、本件土地の権利関係や境界に何ら法律的な変動を及ぼすものではないから、本件地図備付けが行政庁の処分にあたらないことは明らかというべきである。したがって、右同様の判断の下に、原告の審査請求を却下した本件裁決は適法というべきである。
三 よって、本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官小林正明 裁判官喜多村勝德 裁判官角井俊文)